1.金融資産及び金融負債の発生の認識とは
企業が金融資産や金融負債を取得・発生させた場合、どの時点で貸借対照表に計上するのでしょうか。
このように、金融資産や金融負債をいつ会計上認識するかという問題を、金融資産及び金融負債の発生の認識(Recognition of the origination of financial assets and financial liabilities)といいます。
日本の企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」では、原則として、金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したときに、その発生を認識することとされています。
例えば、企業が他社の株式を購入する契約を締結した場合や、デリバティブ取引の契約を締結した場合には、原則として契約締結時に金融資産又は金融負債の発生を認識します。
2.日本基準における発生の認識
(1)基本的な考え方
金融商品会計基準第7項では、金融資産及び金融負債の発生について、次のように定めています。
金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したときは、原則として、その金融資産又は金融負債の発生を認識します。
ここで重要なのは、現金の受渡しが行われた時点ではなく、契約上の権利や義務が生じた時点を基準にするという点です。
例えば、企業が金融機関から1,000万円を借り入れる契約を締結した場合、契約に基づく権利義務が生じます。実際の資金の受取りが後日であっても、契約の内容や取引の実態に応じて認識時点を判断する必要があります。
(2)なぜ契約締結時に認識するのか
金融資産そのものを対象とする取引では、契約を締結した時点から、金融商品の時価変動リスクや取引相手の信用リスクが契約当事者に生じます。
例えば、株式の購入契約を締結した後、実際に株式の受渡しが行われるまでの間に株価が変動することがあります。また、取引相手の信用状態が悪化する可能性もあります。
このようなリスクが契約締結時点から生じることを踏まえ、日本基準では原則として契約締結時に金融資産及び金融負債の発生を認識します。
3.取引の種類による認識時点の違い
金融資産及び金融負債の発生の認識では、取引の種類によって認識時点が異なることに注意が必要です。
商品等の売買又は役務提供の対価に係る金銭債権債務は、原則として商品等の受け渡し又は役務提供完了時に発生を認識するなど、一部取扱いが異なります(金融商品会計基準注解3)。
| 取引の種類 | 原則的な認識時点 |
|---|---|
| 商品の販売による売掛金 | 商品の引渡し時 |
| 商品の購入による買掛金 | 商品の受領時 |
| 有価証券の売買 | 契約締結時 |
| デリバティブ取引 | 契約締結時 |
(1)売掛金・買掛金
通常の商品売買や役務提供から生じる金銭債権・債務は、一般に、商品等の受渡し又は役務提供の完了によって発生を認識します。
例えば、企業が商品を販売し、顧客に商品を引き渡した場合、売掛金(Trade Receivables)を認識します。
一方、商品を購入して受け取った場合には、買掛金(Trade Payables)を認識します。
このような通常の営業取引では、契約を締結しただけで直ちに売掛金や買掛金を計上するわけではありません。
(2)有価証券の売買
株式や債券などの有価証券を売買する場合には、原則として契約締結時(約定時)に金融資産の発生を認識します。
例えば、企業が株式を購入する売買契約を締結した場合、実際の株式の受渡しや代金の決済が後日であっても、原則として約定時に認識します。
この点は、通常の商品売買から生じる売掛金・買掛金の認識時点と異なるため、注意が必要です。
(3)デリバティブ取引
先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引などのデリバティブ取引についても、原則として契約締結時に認識します。
例えば、企業が為替予約契約を締結した場合、実際に外貨の受渡しや決済が行われるのは将来であっても、契約締結時点でデリバティブ取引に係る権利・義務が生じます。
したがって、決済日まで会計上の認識を行わないということではありません。
4.IFRS第9号における発生の認識
IFRS第9号「金融商品(Financial Instruments)」でも、金融資産及び金融負債の認識時点について定めています。
IFRS第9号第3.1.1項では、次のように規定されています。
An entity shall recognise a financial asset or a financial liability in its statement of financial position when, and only when, the entity becomes party to the contractual provisions of the instrument.
(企業は、金融商品の契約条項の当事者となったとき、かつそのときに限り、金融資産又は金融負債を財政状態計算書に認識しなければならない。)
この規定のポイントは、次の表現です。
becomes party to the contractual provisions of the instrument
これは「金融商品の契約条項の当事者となる」という意味です。
つまり、企業が金融商品の契約に基づく権利又は義務を有する当事者となった時点で、金融資産又は金融負債を認識するという考え方です。
(1)通常の売買契約との関係
IFRS第9号では、通常の商品売買などの未履行契約(Executory Contract)については、原則として、契約を締結しただけでは金融資産や金融負債を認識しません。
例えば、企業が顧客から商品の注文を受けただけで、まだ商品を引き渡していない場合、通常は売掛金を認識しません。
商品を引き渡すなど、契約の一方の当事者が履行することによって、金融資産や金融負債の認識が必要となります。
一方、デリバティブ契約については、契約締結時点で金融商品に係る権利・義務が生じるため、原則として契約締結時に認識します。
(2)有価証券の通常の売買
IFRS第9号第3.1.2項では、金融資産の通常の売買(Regular Way Purchase or Sale)について、約定日会計(Trade Date Accounting)又は決済日会計(Settlement Date Accounting)のいずれかを適用することが認められています。
- Trade Date Accounting(約定日会計):売買契約を締結した日に金融資産の認識・認識中止を行う方法
- Settlement Date Accounting(決済日会計):金融資産の受渡しが行われる日に認識・認識中止を行う方法
企業は、これらの方法のうち適切な方法を会計方針として選択し、同様の取引に継続して適用します。
したがって、IFRSでは有価証券の通常の売買について、常に約定日会計だけが認められているわけではありません。
5.日本基準とIFRSの比較
| 項目 | 日本基準 | IFRS第9号 |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 契約上の権利・義務を生じさせる契約の締結時に原則認識 | 金融商品の契約条項の当事者となった時点で認識 |
| 通常の商品売買 | 商品等の受渡しや役務提供の完了により債権・債務を認識 | 通常は契約の履行に伴って認識 |
| 有価証券の通常の売買 | 原則として契約締結時 | 約定日会計又は決済日会計 |
| デリバティブ取引 | 原則として契約締結時 | 原則として契約締結時 |
日本基準とIFRSでは、基本的な考え方に共通する部分がありますが、有価証券の通常の売買における認識方法など、具体的な取扱いには違いがあります。
6.会計英語の重要表現・単語
今回のテーマで押さえておきたい英単語と表現を整理します。
| 英語 | 日本語 | 解説 |
|---|---|---|
| recognition | 認識 | 会計上、資産・負債などを財務諸表に計上すること |
| initial recognition | 当初認識 | 金融商品などを最初に認識すること |
| financial asset | 金融資産 | 現金、売掛金、有価証券など |
| financial liability | 金融負債 | 買掛金、借入金、社債など |
| contractual provision | 契約条項 | 契約に定められた内容 |
| contractual right | 契約上の権利 | 契約に基づいて有する権利 |
| contractual obligation | 契約上の義務 | 契約に基づいて負う義務 |
| trade date | 約定日 | 金融商品の売買契約が成立した日 |
| settlement date | 決済日 | 金融商品の受渡し・決済が行われる日 |
| derivative | デリバティブ | 先物、先渡、オプション、スワップなど |
| counterparty | 取引相手方 | 契約や取引の相手となる当事者 |
| credit risk | 信用リスク | 取引相手が契約上の義務を履行しないリスク |
| market risk | 市場リスク | 市場価格や金利、為替などの変動によるリスク |
7.英文の文法・構文解説
ここでは、IFRS第9号第3.1.1項の英文を使って、重要な文法を確認します。
An entity shall recognise a financial asset or a financial liability in its statement of financial position when, and only when, the entity becomes party to the contractual provisions of the instrument.
(1)shall recognise
「認識しなければならない」という意味です。
会計基準や法律などで、義務や要求事項を示す場合に使われます。
- shall recognise:認識しなければならない
- shall measure:測定しなければならない
- shall disclose:開示しなければならない
会計基準では、shall が規定上の要求を表す重要な助動詞として使われます。
(2)in its statement of financial position
「企業の財政状態計算書において」という意味です。
Statement of Financial Position は、IFRSにおける貸借対照表の名称です。
- Statement of Financial Position:財政状態計算書
- Balance Sheet:貸借対照表
(3)when, and only when
「~するとき、かつそのときに限り」という意味です。
単に when とするよりも条件を限定する表現であり、会計基準では認識要件を明確に示すために使われます。
この文章では、金融商品の契約条項の当事者となった場合に限って、金融資産又は金融負債を認識するという意味になります。
(4)become party to
「~の当事者となる」という意味です。
- become party to a contract:契約の当事者となる
- become party to an agreement:合意の当事者となる
- become party to a financial instrument:金融商品の当事者となる
ここでは、企業が金融商品の契約に基づく権利・義務を有する立場になることを表しています。
8.理解度確認問題
問題1
日本基準において、金融資産及び金融負債の発生は、原則としていつ認識されるでしょうか。
A. 現金の受渡しが行われたとき
B. 契約上の権利又は義務を生じさせる契約を締結したとき
C. 決算日
D. 金融商品の満期日
正解:B
金融商品会計基準第7項では、契約上の権利又は義務を生じさせる契約を締結したときに、原則として発生を認識すると定めています。
問題2
日本基準において、通常の商品販売から生じる売掛金は、一般にいつ認識されるでしょうか。
A. 売買契約を締結したとき
B. 商品の引渡しが行われたとき
C. 顧客から代金を受け取ったとき
D. 決算日
正解:B
通常の商品販売では、一般に商品等の受渡しによって売掛金の発生を認識します。
問題3
日本基準において、有価証券の売買は原則としていつ認識されるでしょうか。
A. 約定時
B. 決済時のみ
C. 配当金の受領時
D. 決算日
正解:A
有価証券については、原則として約定時に発生を認識します。
問題4
IFRS第9号において、金融資産又は金融負債を認識する基本的な条件はどれでしょうか。
A. 現金を受け取ったとき
B. 契約書に署名したときだけ
C. 金融商品の契約条項の当事者となったとき
D. 決算日を迎えたとき
正解:C
IFRS第9号第3.1.1項では、企業が金融商品の契約条項の当事者となったときに、金融資産又は金融負債を認識すると定めています。
問題5
IFRS第9号における金融資産の通常の売買について、認められている会計処理はどれでしょうか。
A. 約定日会計のみ
B. 決済日会計のみ
C. 約定日会計又は決済日会計
D. 現金受領日会計のみ
正解:C
IFRS第9号第3.1.2項では、通常の売買について、約定日会計又は決済日会計を適用することが認められています。
9.まとめ
金融資産及び金融負債の発生の認識では、契約上の権利や義務がいつ生じるかを理解することが重要です。
特に、次のポイントを押さえておきましょう。
- 日本基準では、金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したときに、原則として発生を認識する
- 通常の商品売買から生じる売掛金・買掛金は、一般に商品等の受渡しや役務提供の完了によって認識する
- 有価証券の売買は、日本基準では原則として約定時に認識する
- デリバティブ取引は、原則として契約締結時に認識する
- IFRS第9号では、金融商品の契約条項の当事者となった時点で認識する
- IFRS第9号では、金融資産の通常の売買について約定日会計と決済日会計のいずれかを適用できる
金融商品の認識時点を理解することは、金融資産・金融負債の測定や消滅の認識を学ぶうえでも重要です。

